(5)最初の仕事半日ガイド体験記 (2004年6月の記録) ∬第5話 最初の仕事 私は、博物館までバスに同乗することになった。 バスを出発させる前にまず、横田さんが本日の日程変更について説明を行う。 続いて私を紹介してくれた。 私はマイクをとって挨拶を始めた。 「ようこそ皆さま、アンタルヤにお越しいただきました。 アンタルヤの印象、いかがですか?お気に召しましたか? 昨日お着きになったばかりで、今朝はもうパムッカレにお発ちになるとか。出来ればもう1日ふつかゆっくりと滞在していただきたいものですが、そうもいかず、せめて今日はお昼過ぎまでアンタルヤに残っていただき、少しでもアンタルヤの雰囲気を味わってお帰りいただきたく思います。 パザールで庶民の生活を垣間見たり、私の家に来ていただいてトルコの住宅の広さや間取りを知っていただいたり、アンタルヤで今一番人気のある場所、ビーチパークを覗いてみたりしていただこうと思っています。 どうぞ、よろしくおねがいいたします」 オシャベリするつもりで出掛けたのに、自分の提案とはいえ、突然半日ガイド役まで務めることになって、挨拶の予行練習も何もあったものではなかった。 それでも昔とった杵柄。マイクを握った途端、湧き水のごとく言葉が続いて出てきた。 マイクをガイドのビルゲさん(仮名)に渡し、横田さんの後ろの席に座ると、バスの進路が気になり始めた。実はホテルを出発して以来注意していたのだが、博物館へ向かうのに少しばかり遠回りをしていたのだ。 ひょっとしたら、あまりアンタルヤの道を知らない運転手かもしれない。しかし、当面様子を見ることにした。運転手によって通り慣れた道というのがあるものだから。 ある2差路で運転手が左の道に入ろうとした。私は反射的に「ヤンルシュ!(間違ってる)」と声に出した。危ない!その道を入ったら、ホテルの方に戻っちゃうんだよ! 一旦バックして直進の道に入り直した運転手に、それでもまだ道を教えていいものかどうか迷っていた。道を教えられることを、プライドが傷つけられるかのように嫌う人もいるからだ。 次の2差路で、私は控えめに「サーア(右へ)」と教えてみた。しかし運転手には聞こえなかったのだろう、直進してしまった。 それからは積極的に道を教えるよう努めた。何度ツアーで来ている運転手にだって、曲がりくねった一方通行路の多いアンタルヤの繁華街を通るのは難しいに違いない。アンタルヤに慣れていない運転手ならなおさらだった。 博物館に着き、グループがガイドの案内で博物館の中に消えると、私は自宅に取って返すためにタクシーに飛び乗った。 1時間後に、ここに戻っていなければならない。1分でも時間が惜しかった。 しかし、まずタクシーを日曜パザールの方角にUターンさせた。パザールの大体の場所は分かっているのだが、博物館から歩いていける距離なのか、バスで近くまで行った方がいいのか、今一度確かめる必要があった。バスを駐車できそうなスペース、駐車できないとすれば乗り降りに丁度よさそうな場所を確認しておく必要もあった。 タクシーの運転手は、私の抱えた問題を知ると、親身に相談に乗ってくれ、大通り沿いのパザールの入り口まで指差して教えてくれた。 自宅のすぐ近くにある行きつけのバッカル(食料品や日用品を扱う小さいマーケット)前でタクシーを飛び降り、バッカルで卵を買って帰った。 子供たちは目加田さんに遊んでもらいながら、大人しく留守番してくれていたようだった。 30分で食事の支度をして、食べて、また出掛けなければならない。大したことは出来そうもなかった。目加田さんに昨夜の残りご飯でおにぎりを作ってもらい、私はトマトや浅葱の入った玉子焼きを焼いた。それにメロンを切って、ごくごく簡単な朝食を済ませた。 「子供たち、今日は私と一緒に一日お留守番してるって。だから安心して行ってらっしゃい」 私は目加田さんに感謝し、後片付けも彼女に頼むと、再びタクシーに飛び乗った。 (つづく) ∬第6話 日曜パザール見学 |